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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

四

「やあこれは、どうも昨日は、失礼しました」

こういうと、相手はなお驚いた、伊兵衛の恰好がすっかり変っているし、侍姿になると際立った風格があらわれる。やや眼尻の下った、まるっこい顔の、てれたような表情をべつにすれば、まるで違う人間のようにしか思えなかった。

「これは旦那、どうもあの」馬子は眼をまるくして吃った、「――どうもその、とんでもねえこって、どうかひとつ、なにぶんとも」

そして慌てていってしまった。

四

小室青岳は槍術家であった。

箕山城下の呉服町に大きな道場をもち、松平家の侍たちに教授している。扶持も貰っているらしく、藩主が在国のときには、城へも手直しにあがる、ということであった。対馬守成正という藩主はたいそう武芸に熱心で、城下にはほかに念流の刀法を教える、津村九郎兵衛という者の道場があるし、柔術家や弓道などで、家臣に召抱えられている者もあった。

小室は相当に名を知られているとみえ、他の藩から教えを乞いに来る者も多く、現在ではそういう門人が八人いた。

青岳は伊兵衛を槍術の達者とみたらしい。伊兵衛がゆくと、まず門人の四五人と立合せたが、予想よりはるかに腕が立つ、いや、うっかりすると自分より上をつかうかもしれない、ということがわかって、すっかり惚れこんだようであった。