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ゆきのうえのしも
雪の上の霜
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页
旅人はあいまいに(幾らかきみ悪そうに)笑い返した。こちらの堂々たる侍姿と、話すことが腑におちないらしい。伊兵衛はそんなことにはお構いなしで、
「しかしあれですね」
と続けて云った。
「――この荷物は少し重そうですね、子供たちにはちょっとむりじゃないですかね、このくらいの荷物なら馬か駕籠でないと……」
「私もそうしたいんです」旅人は頷いて云った、「そうしたいんですが、吉田から仲山までは、馬も駕籠もないということでして」
「吉田から仲山まで」伊兵衛は旅人の顔を見た、「――そのあいだ馬も駕籠もですって、まさかそんな筈はないでしょう」
「いや本当らしいんですよ、こうして見ているんですが、じっさい荷駄にも駕籠にもゆき合いませんからね」
そう云われてみると、そのとおりだった。今朝、箕山城下から来るときも、街道には馬も駕籠もみかけなかったようだ。
「するとなんですかね、今日はかれらの休み日というわけですかね」
「そんな話は聞いたこともありませんな、馬子や駕籠舁きが揃って休みを取るなんて、幾らなんでもそんなことはないでしょう」
「すると、――なにかわけがあるんですね」
「わけはあるよ」