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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

青岳はなにか云おうとした。しかし言葉が出なかった。伊兵衛は続けた。

「そういうしだいですから、甚だあれですけれども、私はただいまからおいとまを戴いて、もちろん頂戴した一両二分は、ああそうでした、初めのお話より二分も多く頂戴して済みませんでした、たいへん、ひじょうに有難うございました」そこで彼は丁寧におじぎをした、「――あれはすぐお返し致します、こんなことになるとは知らなかったものですから、けがをした馬子たちに分配して来てしまったんです、済みません、すぐにあれしてお返し致します」

「そんなことは無用です、が、そういうわけならお引止めはしません」

青岳もまた複雑な眼つきで云った。怒りが胸いっぱいにこみあげている。騙されたような、愚弄されたような感じで、がんと一つどなりつけたいのだが、伊兵衛の邪気のない童子のようにあけっ放しなようすを見ると、むしろ劬り慰めてやりたくなり、それがまた肚立たしくなるのであった。

「これからといっても夜になったことだし、明朝早くお立ちなさるがよかろう」

「いえ、お嬢さんに対してもそれはできません、有難いですが、じつにあれですけれど、ただちょっと」