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ゆきこんじゃくものがたり

雪今昔物語

中谷 宇吉郎

「自然」1947(昭和22)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页

青空文庫

そしてこの日のために予め寺田先生が生前に使っておられたシルクハットを借りてあったので、それをかぶって出かけた。

九時半に低温室へ行ってみると、戸田君たちは、一晩の徹夜にも拘らず大元気で、昨日決めたとおりにちゃんと仕事は進んでいた。顕微鏡を覗いてみると、いい結晶がもう二つも出来ていた。その後一時までの手配を今一度皆に確認してもらって、私は居室へ行って、十一時から十二時までの間、椅子を並べて身体を横にしていた。万一の用心のためである。

十二時に今一度低温室へ行ってみると、実験は規定したとおりに進んでいる。それで幾分安心して、一時の検査を早々すませて、中央講堂へ急いで行ってみた。広い講堂の床の上に、百人近い人の立つ場所が、個人ごとにマークしてある。その自分の場所を探して、そこに立って待っていた。ところが驚いたことには、二時まで全く何ということもなく、ただ立っているだけなのである。当時の日記をみると「一時中央講堂、二時二十分まで立って待つ。これも全く何の意味もなく待たす也。宮内官が来て一応名と人を照合するだけ十分ぐらいですむ。一時間は全く無意味也。このようにすることを尊皇精神と思うよう也」