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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

二

彫刻家にして近代の巨匠、千駄木の大師匠と呼ばれた、雲原明流氏の内弟子になり、いわゆるけずり小僧から仕込まれて、門下の逸材として世に知られるようになりました。――獅子屋というのはそうした訳で、人品もよし、腕も冴えた。この人物が、四十を過ぎて、まのあたり、艶異、妖変な事実にぶつかった――ちと安価な広告じみますが、お許しを願って、その、直話をここに、記そうと思う。……

ついては、さきだって、二つ三つ、お耳に入れておきたい話があります。

二

以前、まだ、獅子屋さんの話をきかないうち、筆者は山の手の夜店で、知った方は――笑って、ご存じ……大嫌な犬が、人混の中から、大鰻の化けたような面。……なに馬鹿を言え、犬の面がそんなものに似てたまるかと……御尤でありますが、どうも時々そう見える。――その面が出はしまいかと気にしながら、古本古雑誌の前に踞込んで、おやすく買求めて来ましたのが、半紙綴八十枚ばかりの写本、題して「近世怪談録」という。勿論江戸時代、寛政、明和の頃に、見もし聞きもした不思議な話を筆写したものでありますが、伝写がかさなっているらしく、草行まじりで、丁寧だけれども筆耕が辿々しい。