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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

すたすたもので、あれから、柳原を両国まで、鉄道馬車で、あとはまた大歩行きに歩行くつもりの、ところが、馬車を下りる時、料金を払おうとする、と、落したのか、すられたのか、煙草入がありません。小遣ぐるみ。あッと慌てたが、それだけじゃ済まない。広小路のあの群集の中で、しょぼしょぼと監督の前へ出されたのですが、突出したとは言いますまい。連れてった痩せた車掌がいい男で、確に煙草入を――洋服の腰へ手を当てて仕方をして――見たから無銭のりではありません。掏られたのです。よろしい、と肥った監督が大な衣兜へ手を突込んで、のみ込んでくれました。

羅漢たちの中には、苦しい断食の業を積んだのがありましょう、思っただけでも足がすくむ。ありようは五百体より一杯をあてにした、蕎麦も、ちらしも、大道の餅も頬張れない。……それ以上に弱ったのは煙草が飲めない。参詣はしましたが、亀井戸の境内で、人間こうなると、目が眩みます、藤の花が咲いていたか、まだだったか、それさえも覚えていません。

太鼓橋の池のまわりの日当りの石に、順礼の夫婦が休んでいて、どうでしょう、女房が一服のんでいて、継ぎはぎだが紅いところの見える、襦袢の袖で、