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ゆき

雪

中谷 宇吉郎

「雪」1938(昭和13)年 11月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,536 字 · 152 页

青空文庫

それは丁度ベントレーの本が出版された翌年即ち今から六年前のことである。

こういう問題にとり付く一番平易な方法は、先ず雪そのものをよく観るということと、着手の億劫を避けるということである。先ず何よりも雪のとけないような寒いところでなくてはこの実験は出来ないので、学校の附属室の方へ行く廊下の片隅で始めることにした。

此処はスチームも通っていないし、冬になるととても寒いので余り人も通らず先ず屈竟な場所といわねばならない。其処へ実験台の小さいのと、顕微鏡とを運んで、冬の間は一度も開けたことのない引戸をすっかりあけ放つとそれで準備は出来たのである。

札幌の一月は大体気温は零下七、八度位である。凍りついた引戸を無理にあけると、廊下のコンクリートの路面から二尺位も積上っている吹溜の雪が音もなく崩れてコンクリートの上へ流れ落ちるのであった。そこで硝子板を紙へ包んで外へ出して置いて、すっかり冷え切った所を取り出し、降って来る雪をその上へ受取って顕微鏡で覗くことにした。二、三度やっている中にわかったことであるが、雪を受ける硝子板はよく冷えてかつ乾いている必要があった。