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ゆき

雪

中谷 宇吉郎

「雪」1938(昭和13)年 11月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,536 字 · 152 页

青空文庫

それには硝子板を紙に包んで零下十度の戸外に放置して置けばよいのである。顕微鏡の下に顕出した雪の結晶はなるほど今まで写真で見たような形をしている。実のところ本物の雪を顕微鏡で覗いて見たのはこの時が初めてなのである。写真では黒白の線しか分らないのであるが、眼で見た時は、細い小凹凸があるために、繊細なあの模様の縁に空の光が反射して、水晶細工のような微妙な色が見える。水晶の針を集めたような実物の結晶の巧緻さは、普通の教科書などに出ている顕微鏡写真とはまるで異った感じであった。冷徹無比の結晶母体、鋭い輪郭、その中に鏤められた変化無限の花模様、それらが全くの透明で、何らの濁りの色を含んでいないだけに、その特殊の美しさは形容を見出すことが困難な位であった。鋭い輪廓と細い小凹凸は第4図(第1図版)に見られる如くである。

しかし完全な結晶というものは稀であって、色々の形の汚い結晶が混っているのでそれを取り除けるのが一骨であった。結局マッチの軸の頭を折って、そのささくれた繊維の端で欲しい雪の結晶を吊し出して綺麗な硝子板の上へ持って来ることになったのであるが、どうも結晶がとけやすくて困った。