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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

窓は防寒の二重戸になっていた。三方は殆ど書棚で、その中には、和、漢、洋の書物が、整然と整理され、分類されておさめられてあった。

殊に素晴しいのはその什器や調度で、全部マホガニーの、それも古いロマノフ朝風を模したものである。一方の天井から下った、タペストリーには、カザリン二世(十七世紀)頃の香があり、死体のかけていた椅子などは、背部の木部の飾りに、ロマノフ廃朝の紋章が浮き彫され、銀の象眼が、なされていた。

燭台や書類入れなども、中世紀のコーカサスの民芸品でもあろうか形といい色と云い、ほれぼれするものばかりだった。

天井の中央から下げられた、その吊洋燈は、切子硝子で、シャンデリヤの様な豪華な姿を、人々の前に見せていた。そしてそれは蔓草を模した金属製の黒光りした鎖で、あげさげする様になっていた。のぞいて見ると、六角のその油壺も切子硝子で作られていた。

兇器に使われた火掻棒までに、唐草模様の象眼がされていた。

框を毀された問題の扉は、厚さ二寸もある樫の木で、縦に長く、巾三寸位の山形の彫んだ刻みが、一行ずつ、違い互の切り込み模様がついていた。鍵は内側からのみ閉められる簡単な落し金式の物で、そのカキガネは長さ約一尺、巾一寸五分、厚さ五分位の相当重い堅木で作られていてこれにも、アラベスクの象眼がされていた。