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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

修造の眠りをさまたげまいと思い、そこへ七輪を出して、ばたばたあおぎながら茂緒は、ゆうべ書いた手紙のことを考えていた。こんな結果を見ぬかれていたようで、母にたいして恥かしかった。

味噌汁がさめ、土釜の中ではご飯に花が咲いても修造はなかなか起きなかった。ほかになすべきなにもなく、しんかんとした家の中に、つくねんとすわっていた茂緒の耳に、思いがけない声が聞こえた。遠くの方からである。しかも若い女の声だった。

――井村さーん。

――井村修造さーん。

あわてて修造をゆすぶると、彼は真っ赤な目をしてとびおきた。

「ほら、ほら。」

声のことをいうと、彼はあわてて、ごろねの着物の前をあわせ、黒いメリンスの兵児帯をぐるぐる巻きつけながら縁側のガラス戸ごしに外をのぞいた。

「あ、N君だよ。小林扶佐子も一しょだ。」

茂緒はびっくりした。三日間修造と歩いているあいだに、茂緒は茂緒なりの想像で修造の友だちやその細君の名をおぼえてしまってはいたが、その、もっとも親しくゆききしているNたちが、今日ここへ現われるとは考えもしていなかった。彼女はあわてて、ふとんを押入れにしまった。

「おうい、ここだあ。