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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
」などと言って話しかけているのに、彼の妻の多枝はまるで聞こえぬ顔で、Nたちのそばにかしこまってすましていた。平たい顔なのに顎がとがってみえ、ぎゅっと引きむすんだ口もとは芯の強さをみせ、Iとは逆に何か寄りつきがたさを感じさせた。太い眉と切れのながい大きな目も意志的で、ただの女でないことを示している。扶佐子の丸い大きな鼻とはまるで反対に、小鼻の貧弱さだけが、何か不幸を感じさせて、女らしい哀れさを見せてはいたが、脂性らしく化粧をしてない赤い顔色は、にこにこ笑っていても、何か気のおけるものを感じさせた。彼女たちはどうやら茂緒より二つ三つ若いらしいのに、小林扶佐子は詩人だというし、Iの妻である中村多枝ときたら、もうとっくに、新聞の懸賞小説などに当選しているという。
――女でも、えらいんだなあ。
茂緒は、このはるかな存在である女たちにひそかに目をみはり、なんとなく差しひかえる気になり、それでよいものならかくれたい気もちだった。それなのに、扶佐子ときたら、かまわず茂緒を引っぱりこもうとした。
「ね多枝さん、ふたりで井村さんの奥さんを訓練しましょうね。いいでしょ、井村さん。