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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
もう電車もあるまいというのだ。時計をもっている者は一人もいない。
「おふとんが――」
茂緒が困った顔をすると、扶佐子はあはあはと大口をあけて笑い、
「おふとんだって。そんな上品ぶらなくてもね、ざこ寝でも、ごろ寝でもいいのよ。」
ふたりでさえもせまいふとんに、六人がねようというのだ。扶佐子は先に立って采配をふるった。昨夜は新婚の褥だった貸ぶとんを引きずりだし、
「きたねえふとんだ。これで銭とるなんて、ふてえ野郎だ。」
掛けぶとんを横にして一枚だけ敷き、そこに六人がならんでねて、あとの一枚と敷きぶとんを掛けようと扶佐子は言った。そして、
「井村夫婦には敷きぶとんをあげましょうよ。わたしたちは四人で一枚よ。」
修造の貸ぶとんの知恵も、扶佐子から借りたらしいことを、茂緒ははじめて知った。おたがいはそんな相談までできる間がらなのだろうが、茂緒はそうはゆかない。ただ恥かしさでうろうろした。そんなことにはおかまいなく、扶佐子はおもしろがって、男、女、女、男、男、女と枕の場所を指定した。枕はなく、めいめいの帯などをたたんで、きゃあきゃあ、わあわあの騒ぎだった。一ばんはしの茂緒はいつか畳の上にねていた。