轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
まっさきに頭に浮かんだのは、まず襟の汚れて破けている修造の着物のことだった。茂緒が、女らしく二組の着物を四通りに着るのとちがって、修造ときたら、今日も昨日も一昨日も、垢でしめったような着物の一てんばりなのだ。
ゆきとはちがって、あふれてくるような喜びにえくぼをへこませながら質屋の門を出ると、神社の境内で待っていた修造もそれとさとったらしく、にやにやしながら寄ってきた。
「うまくいったア。」
茂緒はもう大得意である。これまで修造が十回も交渉してまとまらなかったのに、勤め先もきかれずにとんとんと話はきまったのだ。茂緒はいい気になって、
「ね、わたしがいったら、昨日のあの家も貸してくれたかもしれないわ。」
「そうですよ。あんたがいかないからさ。」
「あの家、よかったわね。」
家は古いが同じ十五円の家賃で、そこはもう一つ三畳がある家だった。
「でも新しい方がいいよ。こっちも新しいんだから。」
茂緒は思いだして照れながら、
「新婚ですかって、きいたわ。」
「どういったの。」
「仕方がないでしょう。」
にやりと笑う。しかしふたりはまだ、ほんとうのところ手もふれあっていなかったのだ。