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こうちょうのなげき

黄鳥の嘆き

甲賀 三郎

——二川家殺人事件

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页

青空文庫

「本当にうっかりしておりました。御前様が床の中から半分身体を出して、両手を拡げて死んでいらっしゃいましたので、つい、その方に気を取られまして、お薬の方は少しも気がつきませんでした。どうなったのでございましょうか」

「御前様が死んでおられるのを発見した時に、君は、どうしたの?」

「御前さまが大へんですッといって大声を上げました。そしたら、直ぐに市ヶ谷さまが飛んでお出になりました――」

「なにッ、市ヶ谷さまだって」

野村は吃驚した。重武は市ヶ谷に住んでいたので、二川子爵家の雇人達は市ヶ谷さまと呼んでいたのだった。

千鶴は野村の剣幕が激しいので、呆気にとられながら、

「はい」

「だって、君は重武さんは暫く見えなかったといったじゃないか」

「それは前の日までの事のように伺いましたから。当日の朝九時頃に参られましたのでございます」

「九時頃に」

「はい、御前さまは未だお寝み中です、と申し上げましたら、格別急ぐ用でもないから、待っていようと仰有いましたので――」

「そうか。それで君は十時頃部屋へ様子を見に行ったのだね」

「はい、それもございましたけれども、いつも朝早く一度お眼覚めになります習慣でしたので、少し心配になりまして見に行きましたのでございます」