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こうちょうのなげき
黄鳥の嘆き
甲賀 三郎
——二川家殺人事件
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页
四
その時の事はむろん野村の記憶にはないが、時々はひどく掴み合ったそうで、成人してからは逆になったが、当時は二川の方が肥っていて力が強く、野村の方が分が悪かったらしい。掴み合いが始まると、むろん乳母はあわてゝ仲裁したに違いない。
重武が上京したかどうかについては記録はないが、重行の葬式当日重武がいた記憶が野村にはないから、上京しなかったか、上京しても直ぐ又旅に出たものと思われるのだ。
かくして、四五年の平和が続いた後に重行の急死となったのだった。
野村はホッと一息した。そうして、次の書類を取上げたがそれは重行が野村に送った遺書だった。
四
二川重行の遺書は彼の死後、直ぐに野村の父に送られたものらしく、読んで行くうちに、それが思いがけなく重大な告白だったので、野村は次第に昂奮を覚えて来た。
親愛なる野村儀造君
君も知られる通り、僕は心臓に故障があるから、いつ死ぬか分らぬ。実は死ぬまでにこの告白を君にだけして置くべきであるが、僕にはそれが出来なかった。本当の事をいえば、僕は死んだ後も、君にこの事を知られたくはないのだ。然し、どうかすると重武が薄々感づいたかも知れぬ。