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こうちょうのなげき
黄鳥の嘆き
甲賀 三郎
——二川家殺人事件
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页
七
然し、彼を罰せしむべく、十分の自信がないのだ。
多くの事は時が解決して呉れる。然し、この事件に限り、時が経てば経つほど駄目になるのだ。赤いうちに打たねばならぬ鉄なのだ。
野村はいら/\しながら、当度もなく歩き廻っていた。
七
翌日午後二時、青山斎場で二川重明の神式による葬儀がしめやかに行われた。
斎主は二川家の相続者たる重武だった。
重武は真白な喪服をつけて、玉串を捧げて多数の会葬者の見守る中を、しず/\と祭壇に近づいた。
と、突然、会葬者の中から脱兎の如く飛出して、重武に飛びついた者があった。
それが中年の婦人であること、重武の純白の式服がみる/\真赤になって、彼がバッタリと斃れたこと。加害者たる中年の婦人が、返す刃で咽喉を掻き切って、その上に折り重なったこと、それは全く瞬間的に、会葬者の眼に映じた事だった。彼等は恰も悪夢を見るように暫くは呆然としていた。
加害者の婦人は五十五六の品のいゝ老婆だった。即座に縡切れたので、むろん、姓名も住所も分らなかった。
野村儀作にだけ、この加害者婦人が、何という名で、何の目的で重武を斃したのか、はっきり分っていた。