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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
まったく、意表を絶したこの体態を見ては、かえって反対の見解が有力になってゆくではないか。易介の咽喉を抉ったと目されている短剣を握り締めて、伸子はこれをとばかりに示しているけれども、一方それ以上厳密に、失神するまでの経路が吟味されねばならない。結論はその一つだった。王妃ブズールが唱えば、雨となって降り下って来る――黒人の penis に、とうとうこの事件の倒錯性が狂い着いてしまったのである。
さてここで、鐘鳴器室の概景を説明しておく必要があると思う。前篇にも述べたとおり、その室は礼拝堂の円蓋に接していて、振鐘のある尖塔の最下部に当っていた。そして、階段を上りきった所は、ほぼ半円をなした鍵形の廊下になっていて、中央――すなわち半円の頂天とその左右に三つの扉があり、なお、室内に入ってから気づいたことであったが、当時左端の一つのみが開かれていた。そこ一帯の壁面を室内から見ると、それが、音響学的に設計されているのが判る。一口に云えば巨きな帆立貝であって、凹状の楕円と云ったら当るかもしれない。たぶんここに鐘鳴器を具えるまでは、四重奏団の演奏室に当てられていたのであろうが、したがって中央の扉にも、外観上位置的に不自然であるばかりでなく、後から壁を切って作られたらしい形跡が残っていた。