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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
と云うのは、ごく最近に、その辺一帯の枯芝を焼いたらしい形跡が残っている事だった。その真黒な焦土が、昨夜来の降雨のために、じとじと泥濘んでいるので、その上には銀色をした鞍のような形で、中央の張出間が倒影していた。のみならず、焼け残りの部分が様々な恰好で、焦土の所々に黄色く残っているところは、ちょうど焼死体の腐爛した皮膚を見るようで、薄気味悪く思われるのだった。
ところで、その二条の足跡を詳細に云うと、法水が最初辿りはじめた左手のものは、全長が二十センチほどの男の靴跡で、はなはだしく体躯の矮小な人物らしく思われるが、全体が平滑で、いぼも連円形もない印像の模様を見ると、それが特種の使途に当てられる、護謨製の長靴らしく推定された。それを順々に追うて行くと、本館の左端と密着して建てられていて、造園倉庫という掛札のしてある、シャレイ式(瑞西(スイス)山岳地方、即ちアルペン風の様式)の洒落た積木小屋から始まっている。また、もう一つの方は全長二十六、七センチほどで、この方はまさに常人型と思われる、男用の套靴の跡だった。本館の右端に近い出入扉から始まっていて、張出間の外側を弓形に沿い、現場に達しているが、その二つはいずれも、乾板の破片が落ちている場所との間を往復していた。