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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
三、莫迦、ミュンスターベルヒ!
三、莫迦、ミュンスターベルヒ!
一同が再び旧の室に戻ると、法水はさっそく真斎を呼ぶように命じた。間もなく、足萎の老人は四輪車を駆ってやって来たが、以前の生気はどこへやらで、先刻うけた呵責のため顔は泥色に浮腫んでいて、まるで別人としか思われぬような憔悴れ方だった。この老史学家は指を神経的に慄わせ、どことなく憂色を湛えていて、明らかに再度の喚問を忌怖するの情を示していた。法水は自分から残酷な生理拷問を課したにかかわらず、空々しく容体を見舞った後で、きりだした。
「実は田郷さん、僕には、この事件が起らない以前から知りたい事があったのですよ。と云うのは、殺されたダンネベルグ夫人をはじめ四人の異国人に関する事なんですが、いったいどうして算哲博士は、あの人達を幼少の頃から養わねばならなかったのでしょうか?」
「それが判れば」と真斎はホッと安堵の色を泛べたが、先刻とは異なり率直な陳述を始めた。「この館が、世間から化物屋敷のようには云われませんじゃろう。御承知かもしれませんが、あの四人の方々は、まだ乳離れもせぬ揺籃の頃、それぞれ本国にいる算哲様の友人の方々から送られてまいったそうです。