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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

つまりこの場合は、左横の『シサムネス皮剥死刑之図』の脇から発して、画面を水平に撫でている光線が、それに当るのですよ。すると勿論、色彩から光度の方に、本質が移ってしまいます。ですから、黄や黄緑のような比較的光度の高い色や、対比現象で固有のもの以上の光度を得ている色彩は、恐らく白光に近い度合で輝くでしょうし、またそれ以下のものは段階をなして、しだいに暗さを増してゆくに違いないのです。その光度の差が、この黒鏡に映るといっそう決定的になってしまうのですが、一方実際問題として、膠質の絵具では全体にわたって眩耀が起らねばなりません。しかし、色調を奪って、その眩耀を吸収してしまうばかりでなく、それを黒と白の単色画に、判然と区分してしまうものが、実にこの漆扉――すなわち黒鏡なのでした。ですから、やや近い色でも、最も光度の高いものに対比されると、幾分暗さを増すに違いないのですから、そこにテレーズの顔が、ああいう確かな線で、くっきりと描き出された原因があるのですよ。ねえ田郷さん、貴方は史家ホルクロフトや、古書蒐集家ジョン・ピンカートンなどの著述をお読みになったでしょうが、かつて魔法博士デイやグラハムが、愚民を惑わした黒鏡魔法も、底を割れば、たったこれだけの本体にすぎないのです。