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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

(註)一六三一年瑞典王グスタフス・アドルフスは、独逸新教徒擁護のために、旧教聯盟とプロシァにおいて戦い、ライプチッヒ、レッヒを攻略し、ワルレンシュタイン軍とリュッツェンにて戦う。戦闘の結果は彼の勝利なりしも、戦後の陣中においてオッチリーユが糸を引いた一軽騎兵のために狙撃せられ、その暗殺者は、ザックス・ローエンベルグ侯のためその場去らずに射殺せらる。時に、一六三二年十一月十六日。

瞬間検事と熊城は、自分ではどうにもならない眩惑の渦中に捲き込まれてしまった。犯人の名――それはすなわち、この事件の緞帳が下されるのを意味する。しかし、古今東西の犯罪捜査史をあまねく渉猟したところで、とうてい史実によって犯人が指摘され、事件の解決が下されたなどという神話めいた例しが、従来にわずかそれらしい一つでもあったであろうか。それであるからして、二人は駭き呆れ惑い、ことに検事は、猛烈な非難の色を泛べて、実行不可能の世界に没頭してゆく法水を、厳然と極めつけるのだった。

「ああまた、君の病的精神狂乱かね。とにかく、洒落はやめにしてもらおう。壺兜や手砲で事件の解決がつくと云うのだったら、まず、そういう史上空前の証明法を聴こうじゃないか」