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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ところが、次の瞬間法水の顔にサッと光耀が閃いていて、突如鉄鞭のように、凄じい唸りが惰気を一掃したのである。彼は、甘そうに莨を二、三度吸うと云った。
「冗談じゃないぜ、こんなに素晴らしい魔王の衣裳が、弾薬塔や砲壁の中にあってたまるもんか。支倉君、僕の魔法史的考察はついに徒労ではなかったのだ。散々ぱら悩まされた五芒星呪文の正体が、ものもあろうに、ルイ十三世朝機密閣史の中から発見されたのだよ。いや言葉を換えて云おう。当時不即不離の態度だったけれども、新教徒の保護者グスタフス・アドルフス(瑞典王)と対峙していたのが、有名な僧正宰相リシュリュウだったのだ。実にこの事件の本体が、あの陰険きわまりない暗躍の中に尽されているのだよ。ところで支倉君、君は、リシュリュウ機密閣の内容を知っているかね。暗号解読家のフランソア・ヴィエトやロッシニョールは? 錬金魔法師兼暗殺者のオッチリーユは? つまり、問題はこの悪党僧正オッチリーユにあるのだが……ああ、なんという薄気味悪い一致だろうか。被害者の名も、犯人の名も、あの竜騎兵王を斃したリュッツェン役の戦歿者中に現われているのだがね」