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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

何故なら、彼は時折嘆息し、あるいは細めた眼を、細刻や紋章に近づけたりなどして、たしかにこの戦具変遷の魅力は、彼の職務を忘れさせたほどに、恍惚とさせたに相違なかったのである。

火術弩の図

しかし、室内を一巡して、ようやく水牛の角と海豹の附いた北方海賊風の兜の前まで来ると、彼は側の壁面にある、不釣合な空間に注いだ眼を返して、すぐその前の床から、一張の火術弩を拾い上げた。それは、全長三尺もあるフィンランダー式(上図参照)のもので、火薬を絡めた鬼箭を発射して、敵塞に射込み、殺傷焼壊を兼ねるという酷烈な武器だった。ところで、その構造を概述すると、弓形に附けられた撚紐の弦を中央の把手まで引き、発射する時は、その把手を横倒しにするという装置で、火砲初期頃の巻上式に比べると、きわめて幼稚な十三世紀あたりのものに相違なかった。すなわち、この一つの火術弩から発射された鬼箭が、クリヴォフ夫人に生死の大曲芸を演ぜしめたのであった。が、それが掲げられていた壁面の位置は、ちょうど法水の乳下辺に当っていた。またそれと同時に、熊城が石卓の上にあった鬼箭を持って来たけれども、その矢柄は二センチに余り、鏃は青銅製の四叉になっていて、鴻の羽毛で作った矢筈と云い、見るからに強靱兇暴をきわめ、クリヴォフ夫人を懸垂しながら突進するだけの強力は、それに