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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

しかし、一同が座に着くと、まず博士が興なげな調子で切り出した。

「いったいどうしたと云うんです。法水さん。いまに誰もかも、元素に還されてしまうのじゃないでしょうか。いったい、犯人は誰ですかな。家内は、その影像を見なかったと云ってますよ」

「さよう、まったく神秘的な事件です」と法水は伸ばした肢を縮めて、片肱を卓上に置いた。「ですから、指紋が取れようが糸が切れていようが、とうてい駄目なのです。要するに、あの底深い大観を闡明せずには、事件の解決が不可能なのですよ。つまり、臨検家が幻想家となる時機にですな」

「いや、元来儂は、そういう哲学問答が不得意でしてな」と警戒気味に、博士は眼を瞬いて法水を見た。そして、「しかし、貴方はいま、糸と云われましたね。ハハハハ、それが何か令状と関係がおありですかな。法水さん、儂はこのままで凝っと、法律の威力を傍観していたいですよ」と早くも遺言書の開封に、不同意らしい意向を洩らすのだった。

「そりゃ云うまでもありません。家宅捜索令状などは、どこにも持っちゃいませんよ。だが、一人の辞職だけで済むものなら、たぶん僕等は法律も破りかねないでしょう」