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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「これですよ法水さん、やっとこれで、僕は自由になることが出来ました。実を云いますと僕は、どこかの隅に穴を掘って、その中へ怒鳴ろうかと思いましたよ。でも、考えてみると、もしそんなことをした日には、あの怖ろしいメフィストが、どうして容赦するものですか」
こうして、ついに法水との賭に、押鐘博士が勝った。しかし、内容を白紙と主張した法水の真意は、けっしてそうではなかったらしい。勿論その一言は、博士を抑えた得体の知れない、計謀には役立ったに相違ないが、恐らく内心では、黙示図の知れない半葉を喘ぎ求めていたのであろう。そして、空しくこの刮目された一幕を、終らねばならなかったに違いない。ところが、不思議なことには、勝ち誇ったはずの博士からは、依然神経的なものが去らずに、妙に怯々した不自然な声で云うのだった。
「これでやっと儂の責任が終りましたよ。しかし、蓋を明けても明けなくても、結論はすでに明白です。要するに問題は、均分率の増加にあるのですからな」
そこで、法水等は広間を去ることにした。彼は博士に対して、色々迷惑を掛けたことをしきりに詫びてから室を出たが、それから階上を通りすがりに、なんと思ってか、彼一人伸子の室に入っていった。