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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかも、その魔法の輪が、多量の石灰分を吸収した後に砕けたので、それが、あの絢爛たる神秘を生むに至ったのだよ。ところが支倉君、ちょうどこれによく似た現象を、史実の中にも発見出来るのだがね。例えば、エルボーゲンの魚文字(註)の奇蹟が……」
(註)一三二七年まだカルルスバート温泉が発見されぬ頃、同地から十マイルを隔てたエルボーゲンの町外れに、一つの奇蹟が現われた。それは、廃堂の床に、基督教の表象とされている魚という文字が、ものもあろうに希臘語で現われたのだった。しかし、それはたぶん、鉱泉脈の間歇噴気によるものならんと云われている。
「いや、それはいずれまた聴くとして」と慌てて検事は、似非史家法水の長広舌を遮ったが、依然半信半疑の態で相手を瞶めている。「なるほど、現象的には、それで説明がつくだろう。また、奥の屍室の中に、あるいは紋章のない石の一端が、現われているかもしれん。しかし、仮令ばそれで、一人二役が解決するにしてもだ。どうしても僕には、隠さずにいい姿を隠した、レヴェズの心情が判らんのだよ。たぶんあの男は、自分の洒落に陶酔しすぎて、真性を失ってしまったのだろう」