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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

すると、それに、故人の算哲博士が駁論を挙げたでしょう。ところが、不審なことには、その論争が一年も続いて、まさしく高潮に達したと思われた矢先に、まるでそれが、黙契でも成り立ったかのように消え失せてしまいましたね。そこで、試しに僕は、過去黒死館に起った出来事を、年代順に排列して見ました。そうすると、次の明治二十三年には、あの四人の嬰児が、はるばる海を渡って来たではありませんか。ねえ八木沢さん、たぶんその間の推移に、貴女がこの館にお出でになった理由があると思うのですが」

「もう、何もかも申し上げましょう」と鎮子は沈鬱な眼を上げた。心の動揺がすっかり収まったと見えて、いったんは見分けもつかぬ深みへ、落ち込んでしまった顔の凹凸が、再び恐ろしい鋭さでもって影を擡げてきた。「私の父と算哲様があの論争を中止いたしましたのは、つまりその結論が、人間を栽培する実験遺伝学という極論に行き詰ってしまったからでございます。そう申し上げればあの四人が、たかが実験用の小動物にすぎないということはお判りでしょう。そこで、四人の真実の身分を申しますと、それぞれに紐育エルマイラ監獄で刑死を遂げた、猶太人、伊太利人などの移住民を父にしているのでございます。