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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それに、館中の響がこの空間には異様に轟いてきて、時折岐路ではないかと思ったり、また、人声のようにも聴えたりして、胸を躍らすのもしばしばであった。しかし、スリッパの跡はどこまでも消えずに彼等を導いていった。その足許には、雪を踏みしだくような感じで埃の堆積が崩れ、それを透かして、の冷たい感触が、頭の頂辺まで滲み透るのだった。こうして、この隧道旅行は、かれこれ二十分あまりも続いた。坑道は右に左に、また、ある部分は坂をなし、ほとんど記憶できぬほど曲折の限りを尽して、最後に左に曲ると、そこは袋戸棚のような行き詰りになっていた。そして、そこにも魔王バリの面が発見された。ああ、その石壁一重の彼方は、館の何処であろうか。法水は固唾を呑んで面の片眼を押した。すると、その右の扉は、熊城の肩を微かに掠って開かれたが、前方にも依然として闇は続いている。しかし、どこからとなく、寛かな風が訪れてきて、そこが広い空間であるのを思わせるのだった。
法水は前方の空間を目がけて、斜めに高く光を投げた。けれども、その光は、闇の中を空しく走ったのみで、何も映らなかった。それで、今度は一歩踏み込んで、頭上に向けると、そこには、醜い苦渋な相貌をした三人の男の顔が現われた。