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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ただただ、雑色と雑形の一種異様な混淆であって、あるいは、盆景的に矯絶な形をした木の根細工のようでもあり、その――一面に細かい亀裂の入った羊皮紙色の皮膚を見ると、和本の剥がれた表紙を、見るような気もするのだった。すでに、肉体的な類似を求めるのが、困難なしろものだったのである。また、その指頭に立てる屍体蝋燭には、一々向きと印しがついていて、それはやや光沢の鈍いような感じはするけれども、外見はいっこうに、通常の白蝋と変りはなかった。そして、端から火を移してゆくと、ジイジイっと、まるで耳馴れた囁きを聴くような音色を立てて点りはじめ、赭ばんだ――ちょうど血を薄めたような光線が、室の隅々に拡がっていった。そうしているうちに、ダンネベルグ夫人の位置にいた法水の視野を、異様に朦朧としたものが覆いはじめてきた。それは、一種特別な臭気を持った、霧のようなもので、しだいに根元からかけて五本の蝋身を包みはじめ、やがて、焔が揺れはじめて瞬き出すと、室内は、スウッと一段下降したように薄暗くなった。そのとたん、法水の手が差し伸べられて、屍体蝋燭を一つ一つに調べはじめた。すると、五本ともその根元に――すなわち、中央の三本は両側に一つ一つ、両端の二本は、内側に一つ――不可解な微孔があるのが、発見されたのだった。