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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

法水は満足そうに頷いて、伸子の訊問を打ち切った。熊城は、今日の事件において、最も不利な証言に包まれている伸子に対して、いささかも法水が、その点に触れようとしなかったのが不満らしかったが……しかし、乾板に隠れている深奥の秘密を探る最後の手段として、いよいよ神意審問会の光景を再現することになった。勿論それ以前に法水は、鎮子に私服を向けて、当時七人が占めていた位置について知ることが出来た。ところでその配置を云うと、ダンネベルグ夫人一人のみを向う側にして、その間に栄光の手(絞死体の手を酢漬けにして、それをさらに乾燥したもの)を挾み、その前方には、左から数えて、伸子・鎮子・セレナ夫人・クリヴォフ夫人・旗太郎――と以上残りの五人が、相当離れて半円形を作っていたが、独りレヴェズのみは、半円形の頂点に当るセレナ夫人の前面で、やや跼み加減に座を占めていたのである。そして、六人の位置は、入口の扉を背面にしていたのだった。

以前行われた時と同じ室に入って、鉄筐の中から、熊城が栄光の手を取り出したとき、その指の顫えに、無量の恐怖を感じさせるものがあった。それは、かつて人体の一部であったのを、嘲笑うかのように、それらしい線や塊はどこにも見られなかった。