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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

そして、それが、足跡のような形で、交互に帷幕の方へ向い、先になるに従い薄らいでゆく。

「どうも原型を回復することは困難らしいね。テレーズの足だってこんなに大きなものじゃない」と熊城はすっかり眩惑されてしまったが、

「要するに、陰画を見ればいいのさ」と法水はアッサリ云い切った。「コプト織は床に密着しているものではないし、それに櫨木には、パルミチン酸を多量に含んでいるので、弾水性があるからだよ。表面から裏側に滲み込んだ水が、繊毛から滴り落ちて、その下が櫨木だと、水が水滴になって跳ね飛んでしまう。そして、その反動で、繊毛が順次に位置を変えてゆくのだから、何度か滴り落ちるうちには、終いに櫨木から大理石の方へ移ってしまうだろう。だから、大理石の上にある中心から一番遠い線を、逆に辿って行って、それが櫨木にかかった点を連ねたものが、ほぼ原型の線に等しいと云う訳さ。つまり、水滴を洋琴の鍵にして、毛が輪旋曲を踊ったのだよ」

「なるほど」と検事は頷いたが、「だが、この水はいったい何だろうか?」

「それが、昨夜は一滴も」と鎮子が云うと、それを、法水は面白そうに笑って、

「いや、それが紀長谷雄卿の故事なのさ。