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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

第一、こんな窮屈な不自然きわまる形の中に、博士がなぜ描かねばならなかったものか、考えてみ給え」

そうして、黙示図の余白に、鉛筆で右肩下がりのナイフの刀身のような形の形を書いてから、

「熊城君、これが※(2分の1、1-9-20)を表わす上古埃及の分数数字だとしたら、僕の想像もまんざら妄覚ばかりじゃあるまいね」と簡勁に結んで、それから鎮子に云った。「勿論、死語に現われた寓意的な形などというものは、いつか訂正される機会がないとも限りません。けれども、ともかくそれまでは、この図から犯人を算出することだけは、避けたいと思うのです」

その間、鎮子は懶気に宙を瞶めていたが、彼女の眼には、真理を追求しようという激しい熱情が燃えさかっていた。そして、法水の澄みきった美しい思惟の世界とは異なって、物々しい陰影に富んだ質量的なものをぐいぐい積み重ねてゆき、実証的な深奥のものを闡明しようとした。

「なるほど独創は平凡じゃございませんわね」と独言のように呟いてから、再び旧どおり冷酷な表情に返って、法水を見た。「ですから、実体が仮象よりも華やかでないのは道理ですわ。しかし、そんなハム族の葬儀用記念物よりかも、もしその四角の光背と死者の船を、事実目撃した者があったとしたらどうなさいます?」