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くろべきょうこく

黒部峡谷

木暮 理太郎

「東京朝日」1919(大正8)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,752 字 · 26 页

青空文庫

越中沢岳と木挽山とを連ねている山稜からは、両岸に峙つ赤黒い岩壁と其間を貫流する河身とが相当の距離に亙って下瞰される。此間は危険の惧はないが、何回となく困難な徒渉と崖へつり、又は高廻りを行わなければならない。岩苔谷附近からは、さしもの黒部川も普通の谷河の上流とさして撰ぶ所はなくなってしまうのである。この遡行は十日乃至二週間を要す可く、登山の経験は勿論、崖へつりや徒渉等に極めて熟練した案内者人夫を同伴し、減水期を選び、安定せる天候を卜して決行すべく、然らざれば成功は望み難いのみならず、困難と危険とに遭遇するものと覚悟しなければならぬ。

黒部峡谷が此の如く豪宕であり、此の如く険怪であるのは、畢竟周囲の地勢が然らしむるものであって、両岸の大堤防としては、最高三千米最低二千一百米、平均して二千六百米の高度を有する立山後立山の両山脈を西と東とに控え、そして並行したこの二の大山脈は、頂上と頂上との距離が直径二里乃至四里を超えていない上に、河床から千米若くは千五百米の高さに聳えている。其上にこの両山脈は大部分花崗岩から成り、更に新火山岩が迸発している所へ、激烈なる水蝕作用が行われて終に今日見るが如き峡谷を作ったものであろう。