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くろべきょうこく

黒部峡谷

木暮 理太郎

「東京朝日」1919(大正8)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,752 字 · 26 页

青空文庫

濳戸の急坂を下りて河原に出た所は仕合谷である。それから山の鼻を踰えて折尾谷に出で、更に急坂を上下して餓鬼谷の出合に達する。ここで河を渡って右岸に移れば暫く河を渡る要がない。若し其儘左岸を遡るとすれば、アゾ原を経て仙人谷に至り、此附近で是非とも右岸に渡らなければならぬ。東谷の瀑の下を横断し、急崖を搦んで棒小屋沢の出合迄は、甚しき高廻りをせずとも済むのであるが、これから内蔵助谷の合流点に至る迄の間は、下廊下の核心であるから、殆ど命懸けのへつりや高廻りを幾回となく繰返さなければならぬことであろうと思う。内蔵釛谷の合流点に達することを得れば、最早危険区域を脱出したので、尚お多少の困難はあっても、平の小屋までは左岸を辿って面白い旅が出来る。

平から東沢までは全峡中遡行最も容易な場所である。合流点を過ぎて右岸を三、四町行くと川が彎曲している。そこから二、三度崖へつりや徒渉を繰り返して、黒ビンカ下部の岩崖を高廻りし、間もなく口元ノタル沢につくと、中廊下第一の悪場である段々ベツリが現れる。下廊下の険怪を見た眼には気に懸る程でもない。左岸の崖上を高廻りし、徒渉一、二回の後、廊下沢を過ぎれば中廊下は終ったので、これからは奥廊下即ち上廊下の峭壁と淵とが連続しているのである。