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くろべきょうこく
黒部峡谷
木暮 理太郎
「東京朝日」1919(大正8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,752 字 · 26 页
黒部川と其支流
立山後立山の両山脈が斯く東西に対峙していることは、日本北アルプスに取りて何たる幸であろう。木曾駒ヶ岳山脈は、大部分花崗岩から成り、高さに於ても長さに於ても、はた又山の姿に於ても、此両山脈の孰れにもさして劣る者ではないが、之を中央アルプスと唱うることは快く認容しても、何か満たされないような物足りなさと軽い失望とを感ずることを免れないのは、近くに之と対比す可き大山脈を欠いている為であろう。
此二大山脈の始まる所に潺湲たる産声をあげて、其懐に養われつつ倶に北に走ること三十里、その尽くる所に雪を噴く奔湍と雷のような瀬の音とを収めて、日本海に注ぐものは即ち幽峭並ぶものなき黒部の峡流である。
黒部川と其支流
飛騨山脈の水系の中で、黒部川は最も単純であり、又最も完全した縦谷である。けれども黒部川の誇る可き特色は、寧ろ其典型的な峡流をなしている点であって、三十里の流程も下流数里の間を除けば、両岸とも殆ど断崖と絶壁との連続であるというてよい。本邦に河は多いがかくも見事に発達した峡流は恐らく類がないであろう。
黒部川の水源は、後立山山脈の赤岳から北方に分岐した黒岳山脈と、蓮華岳から越中沢岳(又は栂山)に至る迄の立山山脈との間に発源する祖父谷・祖母谷・五郎沢・薬師沢・岩苔谷等を合せたものである。