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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
政も同時に「これはくさやの」と云いかけ、文次が急に口をつぐんだので、彼もあとは云わずに文次を見た。すると、文次はその不審そうな政の眼に気づいて、てれたような、どこかあいまいな微笑をうかべた。
「よせよ」と文次は云った、「そんなんじゃあねえぜ」
「なにがさ」
「嫌えな十手のあとでくさやに気がついたから、いやなこころもちになっただけだ」
「十手とくさやと縁があるのか」と云って政も思い当ったのだろう、丈夫そうな黄色い歯を見せて笑った、「――そうか、くさやは三宅島かどっかで、流人が作るって聞いたっけ」
「おれは悪い野郎だ」文次は続けて二杯飲んだ、「生れつきの性分なんだろう、手に負えねえ乱暴者でしょっちゅうまわりの者を泣かした、いちばん好きなやつ、可愛いやつほど虐めたもんだ、どういう気持なんだかわからねえ、いちばん可愛い妹の巾着から銭をくすねたり、大事にしている玩具を毀したりしたもんだ、そうして親に叱られるとうちをとびだし、どっかの物置とか、薪小屋なんぞへもぐり込んで寝て、二日も三日もうちへ帰らねえ、そんなことを数えきれねえほどやった」
「それが」