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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
んですか」
「おまえさんは騙されてる」と文次は顔をそむけながら云った、苦痛のため言葉が切れ、あとを続けるまえに、彼は深い呼吸をした、「――あいつはおまえさんを騙して、百両という金を持ち出させ、いっしょに木更津へ逃げようと云った」
「これはあたしのお金なのよ、お嫁にゆくときに持ってゆくことになっていた、あたしのお金なのよ」
「ああ」文次は首を振った、「あいつは、おまえさんを女房にはしない、その金のあるあいだは遊んでいて、金がなくなればおまえさんの身を売っちまうんだ」
「あんたは誰なんですか」
「誰でもねえ、そんなことはどっちでも、おまえさんはうちへ帰るんだ」文次は歯ぎしりをして空をふり仰ぎ、そのままで云った、「あんな人間の屑みてえなやつにかかわっちゃあいけねえ、あいつのことは諦めて、早くここから」
「あ、――」娘は提灯をかかげて文次を見、口をあけて、それから、するどく叫んだ、「あんた兄さんじゃないの」
「違う」文次は顔をそむけながら首を振った、「おらあそんな者じゃあねえ」
「いまあんたはおひろって呼んだわ」と娘は云った、「どうしてその名を知ってるのよ、あたしは躯が弱かったので、十四の年におむらと名を変えたのよ、あんたは兄さんだわ、あたしが十二の春に家出をした