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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
御殿で定った祝宴はあるが、それもごく形式的なもので、役の任免などにこんな派手なことをするためしはない。まして夫人や令嬢たちに招かれるなどということは、――井部に聞いてはいたけれども、――彼にとってはまったく初めての経験であり、驚くよりも、途方にくれるばかりだった。……これらの事も、すべて庫田夫婦の世話になったのであるが、主として面倒をみて呉れたのは、夫人のほうで主馬はときどき助言をするくらいのものであった。
「奉行職の方々は望水楼になさいませ」
「役所の方たちは釣橋でようございましょう」
そんなふうに招宴の場所も定め、酒肴の注文などもてきぱきやって、なおひととおり客の接待までして呉れた。
「御婦人たちにも招待のお返しをするのですか」
「いいえ、殿方が女を招くということはありません」庫田夫人はこう云って笑った、「――婚約のできたときには招待をしますけれど、そのときも主人役は許婚者の方がなさいますの、男の方は黙って任せていらっしゃればいいのですよ」
それから庫田夫人はこんなふうにも云った。
「貴方は女の方たちににんきがおありだから、これからもきっと招待があると思います、そんなときはなにを措いてもお受けにならなければいけません、これだけはよく覚えていらっしゃらないと」