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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
「では証人に会わせて頂きましょう」
「必要があれば会わせよう、だがそれよりも動かぬ証拠がある」
こう云って、税所は手にしていた紙をひらき、両端を持って表をこちらへ向けた。
「そこから読めるであろう、どうか」
玄一郎はひと膝すすんだ。それは証書であった。領内にある碇山の檜の一部を払い下げる、代価として五百両受取ったという文面で、玄一郎の署名と勘定奉行の役印が捺してある、宛名は浪花屋嘉平となっていた。
――ああいけない、そうか。
玄一郎は声をあげそうになった。津田に云われたことを思いだしたのである、卑劣な報復をやりかねない、――まさかと思ったが、早くもそれが事実となって現われたのだ。
「この署名、奉行職の判、まぎれはないと思うがどうか」
玄一郎は答えられなかった。自分ではまったく知らない、もともと企まれたことである。署名の字も似せてあるが、鑑識のある者が見れば擬署ということはわかるだろう。だが奉行所の役印はほんものである。誰かが盗んで捺したのだろうが、事実の反証がない限り弁明はならない。
浪花屋の手代なる者と会食し、密談するのを見たという証人、その人間が慥かに見たと主張したばあいにもはっきり否定するだけの材料がない。