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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

事はかなり周到に計画されている、いまここでへたなことは云ってはいけない、玄一郎はそう肚をきめた。

「この証書に覚えがあるかどうか」

「――唯今はお答えがなりかねます」

「なぜ返答ができないのか」

「――唯今はお答えができません」

税所は、さもあろうという顔をした。

「よろしい、それを返答と認める」

そう云って列席の人々を見まわしてから、勘定奉行笈川玄一郎は汚職の疑いがあるので、審理ちゅう城内へ謹慎を命ずる、そういう意味の申し渡しをした。

玄一郎はその場で脇差を取られ、袴もぬがされたうえ、本丸下の巽櫓の階上へ押込められた。

これも意外である、謀逆とでもいうならべつだが、仮にも奉行職にある者を汚職の嫌疑ぐらいで城内押込めという法はない。抗議すればできた。法制からいえば重職の席にある者を、職も解かずに檻禁することはできないのである。

だが玄一郎は抗議をしなかった。いかに巧みに計画されても、根のない謀略である限りどこかに隙がある筈だ。ここはするままにされて、こっちの執るべき手段をよく考えてもいい、そう思ったのである。

櫓番のほかに階下へ三人、階上へ二人の看視が付いた。