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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

それからというものその井戸の水に不思議が起りました。誰が飲んでも初めの一口丈けは清水ですが、二口目から塩水になると申すのでございます」

「成程、平家の一杯水か。然う言われゝば聞いたようだね。何しろ此処で皆沈んでしまったんだから浮ばれないのさ。昔は雨の晩にこの辺に鬼火が出たもんだなんてことを君達の爺さん連中は言っているだろう」

と団さんが言った。

「矢っ張り御存知ですな」

と車屋はつい口車に乗ったが、

「旦那方は広島でございますか?」

「まあその辺さ」

「これから朝鮮へお帰りになりますね?」

「これも図星だ」

門司へは予定の刻限に渡った。狭い海峡を一つ距てゝいる丈けだから本土と異るところは些っともないが、宿引のような男が寄り添って、

「大連へいらっしゃいますか?」

と訊いたのには、成程遠方へ来たという感じがした。停車場の二階で昼食を認めた。

「何うだったね? 俥賃は安かったかね?」

とお父さんは食べながら思い出したように尋ねた。

「否、安くもなかったが、先ず土地相場だろう」

と団さんは答えた。

「多少有効だったね」

「あんなに嘘を吐いて漸く土地相場じゃ割に合わない」

と三輪さんは無料で乗る積りらしかった。