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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

赤いすじの入ったソックスもしきりに気になるらしい。たびたび手をやって触ってみては、にたりにたりする。

門の前を声をはずませて次々通るは皆一年生。

「みんないいこ、おはなをかざる、みんないいこ……」

もう憶えていて大声で叫んで通る。

「なかよしこよし、みんないいこ」

どうかそうあってほしいものだ。

お茶を飲みながら叔母さんが、

「私が付いて参りましょうね」と言った。

私は、はい、と言わずに考えた。ゆうべから考えているのは誠一を付き添いにすることだった。まだ十四歳だけれども、中学生であり、肉親のただひとりの兄である。父兄のうちの父がこのとおり寝ているのだから、兄がゆくのが当たりまえだ。私が亡くなったらカヤノの頼るのはこの兄ひとりである。将来あるいは外国に離れ離れに住むようになるかもしれないが、たとい地球の裏と表とに別れ住もうとも、頼り頼られねばならぬのは血の直接つながる二人である。今日はカヤノの学問への出発の日だ。この意義ある日にカヤノは兄と手をつないで門を出るがよいだろう。

「誠一に付いていってもらいましょう」

と私は言った。誠一はどきんとしたらしく、目を開いて私を見た。