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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

私は言葉を続けた。

「誠一は中学生だ。なんでも独りでやらねばなりません。これからお父さんの代わりにカヤノの世話をみてやるのだから。さあ、二人仲よく手をつないで行きなさい」

叔母さんが目をしばたたいた。

二人はおろし立ての靴をはく。ズック靴は少し大きすぎるようだが、その大きすぎることがカヤノにはうれしいらしい。私は門がよく見えるように、障子をすっかり開けてもらった。

「お父さん行ってきまァす」

「行っていらっしゃい」

小さい二人は門に向かう。門の外を一年生が次々通る。にぎやかだ。すずめの行列みたいだ。

と、カヤノがつと立ち止まった。

誠一が手を引く。動かない。門の外を通る入学生の群れを見つめたまま動かない。泣き出すのでもない。じたばたするのでもない。何かにおびえた子牛のように、足を踏ん張って突っ立っている。小さい兄は困りきって、しきりになだめすかしている。ききめがない。硬い木彫人形のようにびくとも動かぬ。とうとう兄さんもべそをかき始めた。

――なぜだろう? さっきまであんなに入学をよろこんで浮き立っていたのに。服は新調、靴もおろし立て、ランドセルは上等、ちゃんと平がなで名を書いたハンカチはつけてあるのに……何が足らぬの?