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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
「こんなに生活が苦しくなっていても、まだ産めよ、殖やせよ、と言うのは無理じゃないでしょうか?」
「無理なようにも見えるね。しかし、全知全能全善の神が無理を強いるはずがない」
「でも、現に無理が起こっているんじゃないの?」
「その責任は神にありと言いたいのか?」
「神に責任のあるはずはないけれど――」
「愛にまします神が、人間の生きてゆくに必要な物を用意せずにおいて、地に満てよ、と命じなさるものだろうか? そんないいかげんな命令は出されぬはずだよ。地に満つるほど人類が殖えても、生きてゆけるだけの物はちゃんと用意されてあるはずだ。人類がまだそれを見つけ出しておらぬのじゃないかな? どこかに隠してあるのだ。それを人類がこれまで怠けていて取り出して利用するところまで至っておらないのだ。人間にはあらかじめ知恵と自由意志とが与えられている。そうして神は、なんじの額に汗してパンを得よ、とも命じている。この知恵と自由意志と、額の汗とをこれまでの人類は正しく発揮したであろうか?」
「かなりよく発揮したと思います。だって動物界とまるで違った今日の文明社会をつくり上げてきましたから。