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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
脚も腕も細るだけ細り、これ以上は骨が邪魔になってやせられないところまで来ているから、もうやせる心配はない。若くしてバスケット・ボールの選手をしていたころには、身長一七一センチ、体重七一キロという好い体格だったので、久しぶりに会う友だちは一目見ただけで涙ぐむ。
全身やせ細っていて、腹だけがこれ以上は皮が伸びないところまで膨れている。なんのことはない。腸満にかかった青がえるだ。腹のまわりが、へその高さで九一センチ、ちょうど妊娠十か月目のおなかの大きさにひとしい。これは脾臓が途方もなく大きくなっているからである。脾臓はもともと手のひらより小さいくらいのものなのだが、私の腹の左半分全部を占領してまだ余り、へそを越して右のほうへかなりのさばり出ている。この張り切れるだけ張り切った脾臓に、外から何かちょっと一打ち当てると、たちまち裂けて、内出血を起こして死なねばならぬ。まるでダイナマイトを腹の中に入れているようなもので、油断ができない。
子供は親にすがりつきたがるものである。学校から帰れば、タダイマッ、と叫んで飛びつきたかろう。しかし私に飛びついたら、脾臓はたちどころにパンクするに決まっている。