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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页
「さあ、僕なんかゞみればたいがいわかりますよ。もつとも、会社員みたいな絵かきも大分ふえて来ましたがね」
「岡本さんは、どういうグループに属しておいでゝすか」
「僕は、まつたく無所属、展覧会へは何処へ出しても落選。個展を二度やりました。絵は一枚も売れませんでした」
「失礼ですが、やはり、絵で生活しておいでなんですか」
「まあ、そうでしようね。ほかに収入はありませんから」
「これもたいへん立ち入つた話ですが、そこにある、浅間だと思いますが、あれくらいの絵はどれくらいするもんでしよう」
「公定相場はありません。僕がいゝと思う値段で売ります。但し、買手があればです。君買つてくれますか。安くしときますよ」
「いやあ、わしなんか、そんな……」
という風なところから、話がほぐれて行つた。
「わしは絵のことはなんにも知りませんが、やはり、昨日までは無名でも、突如として有名になるような場合もあるんでしような」
「その例はありますね。尤も、有名になる、なり方にはいろいろありますがね。絵そのものゝ値打ちはわかるものにしきやわからんのです。また、それでいゝんです。芸術家に不遇なんてものはありませんよ」