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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页
四
「わかりました。君はなかなか話せるお巡りさんだ。またちよいちよい、それこそ、個人の資格で遊びに来てください。時々は退屈してるから、粗茶でも差し上げましよう」
この野郎、人をからかやがると、一瞬、相手をにらみつけたとたん、その相手の瞳のまるで子供のような澄んだ輝きに、彼は、心を打たれた。
四
それから二三日して、増田健次は、久しく廻つてみない山添いの部落のはるかに浅間の山裾の見晴らせる崖のふちをコツコツ歩いて行くと、その崖にのぞんだ楡の木の根もとに画架を据えて、一心に絵筆を動かしている岡本の姿が目にとまつた。
彼は何気なくそれに近づいて、後ろから、カンバスをのぞき込んだ。人の気配に気づいた岡本は、ちよつと振り向いたまゝ、
「よう」
と、ひと言、あとは黙つて、絵具をしきりに混ぜ合せている。骸骨の行列そのまゝの雑木林を距てゝ、薄く白雪をいたゞいた山の連なりが黒々と描かれ、ひときわ高く朱色に聳えた浅間らしい山の頂きから誇張された奇怪な姿の噴煙が、虹を掻きまぜたような色彩に塗りたくられてあつた。
増田健次は、その画面と、実物の風景とを見比べながら、こうも違つてよいものかと思つた。