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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页
その金は悉く、不正と乱行のために費されているんだ。いゝですか、僕は、警官としての君にこれを言つてるんだぜ。いや、それはどつちでもいゝ。僕の言うことが素直にわかる人なら、誰にでもいいたい。あつちこつちの妾や与太者に貢ぐ金を、僕がしばらく払わないつたつて、彼はそうギャアギャアいう権利はないと思うが、どうですか?」
増田健次は、苦笑しないわけにいかなかつた。この理窟は屁理窟にちがいないが、どこか人情をうがつたところがあり、表向き賛成はしかねるが、次第によつては、眼をつぶつてもかまわぬような気がした。しかも、借家人がいかにその義務を怠つても、家主から立退料をせしめることができる時代であつてみれば、宿屋といえども、宿料を滞らせた客だからとて、追い出すからにはそれ相当の立退科を出して然るべき筋合かも知れぬとさえ考えられた。法律は正しいものを守るために存在するとすれば、信濃屋主人和島佐五郎と、文無し画家岡本弘とを比べてみて、直ちに、岡本に非ありとは断じかねるのではないか。しかしながらまた、法は人を裁くが如くにして、実は、その罪を、その罪の軽重のみによつて裁くのである。