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このにぎりめし

この握りめし

岸田 国士

「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页

青空文庫

以上がまず目星しいところで、その他、傷害沙汰、空巣ねらい、土地争い水喧嘩、追剥ぎ放火をはじめ、交通事故、教員の酒乱、主食の闇売などを含めれば、大小なに事か駐在所に持ち込まれない日は一日もないという状態である。

わずか五百戸に足らぬ辺鄙な山村であるが、なまじ鉱泉が少しばかり湧くおかげで、温泉宿と名のつく旅館が二軒あり、それにつれて、旅のものが入り込む機会も多く、青年男女の風儀もとかく乱れがちで、終戦後、他村にさきがけて社交ダンスの真似事が流行りだしたが、その熱がやゝさめたと思うと、それらの青年は三里の道をバスに乗つて町のダンス・ホールへ通つていたのである。

それはそうと、増田健次巡査は、着任以来なかなか評判がよく、以前の駐在は威張りん坊で振舞酒が利くというので、まず一般からは敬遠されるかたちだつたのを、彼は、若いのに物わかりがよく、職務に至つて忠実でありながら、決して弱い者いじめをしないところが善良な人々からは十分に買われていたのである。

たまに戸籍調べに廻つて行くと、たいていのところで、お茶がでる。彼はお茶を一杯飲むには飲むがお茶受けには決して手を出さない。