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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
「おっ、こいつ六助じゃねえか」
律之助も舟へあがった。
「知っている男か」と律之助が訊いた。
「蛤町の六助っていう遊び人です」
「遊び人――」彼は手拭を出して絞り、それで髪の水を拭きながら首を傾げた、「よし、平野町の番所へやってくれ」
半刻ばかり経って、――
律之助は番所へ着くとすぐに、番太の一人を相模屋へやって、着物を都合してくれるように頼み、他の二人の番太が六助の介抱をするのを視ていた。六助は気絶していただけなので、すぐに息をふき返し、多量の水を吐いた。そこへ相模屋から、番頭の茂吉が必要な品をひと揃え持って来た。――相模屋は質両替をやっているし、近くに適当な店がなかったから頼んだのである。古いものでいいと断わらせたのだが、茂吉の持って来たのはみな新しい(ゆきたけは少し合わなかったが)品であった。
「おら、なにも饒舌らねえぞ」六助はいきなり云った、「石を抱かされたって、饒舌るこっちゃあねえ、さあ、どうでもしろ」
そのとき律之助は着替えをしていた。そして番頭の茂吉がそばで手伝っていたが、それを聞いて不審そうに律之助を見あげた。
「これどういうことでございますか」